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KANOSUKEを紐解く Vol.3: ふたつの蒸溜所から生まれたブレンデッド・ジャパニーズウイスキー。たどり着いた黄金比とは?

“MELLOW LAND, MELLOW WHISKY”をコンセプトにウイスキー製造を行う嘉之助蒸溜所。その裏側にある技、土地、そして人の想いを紐解くストーリーシリーズ 「KANOSUKEを紐解く」 の第3回をお届けします。
今回スポットを当てるのは、「世界に通用する蒸溜酒を」という祖父の夢を受け継ぐ二人の兄弟の物語から生まれた、ブレンデッド・ジャパニーズウイスキー「嘉之助 DOUBLE DISTILLERY」。
兄が主導する嘉之助蒸溜所の「シングルモルト嘉之助」と、弟が率いる日置蒸溜蔵の「嘉之助 HIOKI POT STILL」。主役級の原酒同士をいかに向き合わせ、いかにして調和させるのか。まるでJAZZセッションのような試行錯誤の末に導き出されたブレンドの“黄金比”。
創業当初より自社原酒によるブレンデッドウイスキーの可能性を見据えてきた創業者/マスターブレンダー・小正の構想を受け継ぎ、本作の開発を託された所長兼チーフブレンダー・中村俊一が当時を振り返ります。
インタビュー: 嘉之助蒸溜所 所長/チーフブレンダー 中村俊一
◆未知の個性から始まった挑戦
◆主従ではなく、対等な“ふたつの主役”
◆樽は香味の足し算ではなく、構造の設計
◆たどり着いた“黄金比”と、その先へ
※文中では「日置蒸溜蔵で造られるポットスチルウイスキー原酒」を「ポットスチル原酒」と表記しています。
Q1: 日置蒸溜蔵で生まれたポットスチル原酒を初めてテイスティングした際の印象を教えてください。
中村所長/チーフブレンダー(以下、中村):
正直に言えば、「なんだこれは?」というのが最初の印象でした。
大麦由来の個性が非常に強く、厚みがありながら雑味がない。麦焼酎とも異なる、不思議なニューメイクでした。この先どんな熟成を辿るのか想像がつかず、同時に「ブレンドは相当難しくなる」と直感しましたが、未知のポテンシャルも強く感じました。

Q2: 日置蒸溜蔵独自の製法で生み出された酒質を、嘉之助蒸溜所のシングルモルトと比較したとき、最も際立つ“違い”はどこにあるとお考えですか?
中村:
原料設計はアイリッシュ・ポットスチルウイスキーをヒントにしていますが、原料処理や発酵、減圧蒸留には、日置蒸溜蔵が培ってきた本格焼酎の技術が生きています。
その結果、部分的な違いではなく、設計思想から酒質表現まで含めて、一過性のバリエーションではない“新しいスタイルの原酒”として成立している点が最大の違いだと考えています。
Q3: 熟成を経たポットスチル原酒を、ブレンドの中でどのように位置づけるようになったのでしょうか。
中村:
厚みのあるニューメイクを、新樽と1stフィル・バーボン樽で熟成したことで、バニラやハチミツの甘やかさ、ウッディーさが特徴の個性ある原酒に育ちました。
当初は単独商品を想定していませんでしたが、テイスティングを重ねる中で「単体でも成立する」と感じました。一方で、一般的な“サイレント・スピリッツ”として脇役に徹する酒質ではない。
そこで、モルト原酒と同様に、ブレンドの中で明確な存在感を持つ「主役の一人」として扱うことを決めました。

Q4: 「世界に通用する蒸留酒を」という祖父の夢を受け継いで生まれた、KANOSUKEのモルト原酒と日置蒸溜蔵のポットスチル原酒。ふたつの原酒を、ブレンダーとしてどのように捉えましたか。
中村:
KANOSUKEのモルト原酒は、スコッチの文脈を踏まえ完成度を高めるウイスキー。日置蒸溜蔵のポットスチル原酒は、本格焼酎の技法を応用して生まれた、既存の枠に収まらない存在です。ですから主従関係ではなく、異なる背景を持つふたつの個性が同じ舞台に立つ関係。HIOKIポットスチル原酒には、単なるベースや補強材ではなく、ブレンドに厚みや骨格、自然な甘みを与える役割を持たせました。
ブレンドのイメージはJAZZのアンサンブル。
香りの立ち上がりから余韻まで、原酒同士が気持ちよくセッションしているかを大切にしました。モルトはサックスやピアノのようにメロディーを、ポットスチル原酒はベースやドラムのようなリズムを支える存在。両者のバランス調整には特に神経を使いました。
Q5: 最終的に採用した樽構成(バーボン樽、焼酎リチャー樽、アメリカンホワイトオーク新樽、シェリー樽、ピーテッド原酒など)の意図を教えてください。
中村:
香味の足し算ではなく、原酒それぞれの個性をどこで支え、引き立てるかを重視しました。
バーボン樽と焼酎リチャー樽は明るさと甘みの軸。アメリカンホワイトオーク新樽はポットスチル原酒の厚みを受け止め、シェリー樽やピーテッド原酒は奥行きと余韻のアクセントです。
Q6: 「この瞬間、味がまとまった」と感じた瞬間はありましたか。
中村:
ありました。どの原酒が前に出ているかを意識せず、全体が自然な流れとしてまとまった瞬間です。JAZZで言えば、ソロではなくグルーヴが生まれた状態。
奇しくも、その時の比率は50:50でした。
Q7: 目指した味と、今後の可能性について教えてください。
中村:
技巧を誇示するのではなく、リッチでフルーティー、グルーヴ感のある味わい。
派手さよりもバランス、主張よりも余韻を大切にしました。
鹿児島と日置の風土、そして兄弟の物語に思いを巡らせながら、モルト原酒の繊細な華やかさにピートを重ねたしなやかな酒質と、ポットスチル原酒の凛とした力強さを持つ酒質を、ひとつに束ねていく。
その先に、「ひとつの味」が静かに立ち上がったと感じています。
この挑戦を通じて、KANOSUKEのブレンデッドは、原酒の背景や文脈とどこまで誠実に向き合えるかという、新たなフェーズに入りました。
数百年にわたり受け継がれてきた二つの蒸溜酒の歴史と技法に敬意を払いながら、その本質をすくい取り、KANOSUKEだからこそ辿り着ける新しい表現へと昇華していく——。
そんな挑戦を、マスターブレンダー小正とともに、これからも続けていきたいと考えています。

Q8: どのようなシーンで楽しんでほしいですか。
中村:
まずはストレートで。時間差で立ち上がる香味を感じてほしいですね。
次はロックで、氷とともに変化する表情を。
一日の終わりにJAZZを流しながら、自然体で向き合える一本として楽しんでもらえたら嬉しいです。
(インタビュー・文: マーケティング部 PR/Communication 丹沢恭子)
プロフィール: 嘉之助蒸溜所 所長/チーフブレンダー 中村俊一
1977年鹿児島生まれ。鹿児島大学大学院水産学研究科修了後、2005年に小正醸造入社。2019年より嘉之助蒸溜所で貯酒管理を担当し、2020年より所長兼チーフブレンダーとして生産管理・ブレンド・商品開発を統括。
関連商品:

嘉之助 DOUBLE DISTILLERY

嘉之助 HIOKI POT STILL

嘉之助 DOUBLE DISTILLERY 2025 LIMITED EDITION

嘉之助 DOUBLE DISTILLERY The Mellow Bar Reserve

