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KANOSUKEを紐解く Vol.1 : 嘉之助蒸溜所と「焼酎リチャー樽」

KANOSUKEを紐解く Vol.1: 嘉之助蒸溜所と「焼酎リチャー樽」─
─KANOSUKEの“MELLOW”を育む、唯一無二のDNA

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MELLOW LAND, MELLOW WHISKY をコンセプトにウイスキー造りに挑む嘉之助蒸溜所。その製造の裏側や想いをお届けするストーリー 「 Explore KANOSUKE 」 をお届けします。

第1回では、KANOSUKEのDNAを象徴するシングルモルト嘉之助のキーモルト 「焼酎リチャー樽」 に焦点を当て、MELLOWなウイスキーが生まれる秘密に迫ります。

 インタビュー: 嘉之助蒸溜所 所長/チーフブレンダー 中村俊一、同ブレンダー/品質管理チーフ 芹川直子 

◆ 焼酎リチャー樽とは? ― KANOSUKEの“MELLOW”の源流
◆ メローコヅルのDNAと樽文化が息づくウイスキー造り
◆ リチャー工程が生む香味と樽再生の知恵
◆ シングルモルト嘉之助に宿る焼酎リチャー樽の個性と役割

Q1. KANOSUKEは“MELLOW LAND, MELLOW WHISKY”を掲げています。その味わいの大きな特徴である「リッチでフルーティー、MELLOWな余韻」を生み出す要のひとつが「焼酎リチャー樽」ですね。そもそも「焼酎リチャー樽」とは、どういうものなのでしょうか? 

中村(嘉之助蒸溜所 所長):
嘉之助の“MELLOW”さは、実は焼酎から始まっています。母体である小正醸造では、1957年に2代目・小正嘉之助が日本初の樽貯蔵焼酎「メローコヅル」を生み出しました。 「焼酎をウイスキーのように熟成させたら、新たな価値が生まれるのではないか」という挑戦が、すべての出発点です。以来70年、焼酎と樽を育ててきた歴史こそが、嘉之助の根っこなんです。
自前の「焼酎リチャー樽」をウイスキーに活かすという発想は、4代目・小正(マスターブレンダー)が構想段階から考えていました。正直、当初は誰もその味わいを想像できなかった。やったことのない挑戦で、半分は賭けのような気持ちだったと本人も振り返っています。

Q2:樽貯蔵焼酎「メローコヅル」のDNAがKANOSUKEにも息づいていると。KANOSUKEのウイスキーにどう息づいているのか、もう少し具体的に教えてください。

中村:
焼酎は世界的にも珍しく、麹を使うスピリッツです。米や麦の焼酎をアルコール度数約44%でアメリカンホワイトオークの新樽に詰め、熟成具合を見ながら詰め替えや抜き替えを繰り返す。度数が低いからこそ麹由来の成分がゆっくりと樽に染み込み、やわらかくまろやかな味わいが育まれるんです。
その樽をさらにリチャー(焼き直し)することで、独自の香味バランスが生まれる。これがKANOSUKEの“MELLOW”な個性を支える土台になっています。つまり、私たちのウイスキー造りは“樽を育てること”から始まっているんです。

焼酎蔵の先輩杜氏に教わった話も印象的でしてね。麦や米は地上で実るから木の樽と相性がいい。一方、芋は土の中で育つから土でできた甕で休ませるのが自然に馴染む。
以来、日置の手造り焼酎蔵では芋焼酎を甕で熟成する文化が根付いています。素材と器の相性を見極める――それはまさに先代からの知恵なんです。

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Q3: チャーリング(リチャー)とはどんな工程で、どんな香味をもたらすのでしょう?

中村:
リチャーリングとは、一度焼酎に使った樽の内側を再び焼き直す工程です。長期間焼酎を寝かせた樽は、その成分が深く染み込んでいます。内側を焼くことでバランスを整え、新しい木の層を呼び覚まし、バニラやキャラメルのような甘やかな香りを引き出すんです。

炭化した内側は不純物をやわらげるフィルターにもなり、味わいに奥行きを与えてくれます。厚みのあるアメリカンホワイトオークは50〜60年、時には100年も使える良材ですから、リチャーを繰り返すことで樽は息を吹き返し続ける。メーカーによっては、リチャー樽のことを「活性樽」と呼んでいるそうです。まさに再生のプロセスなんです。

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Q4: 「シングルモルト嘉之助」で特に感じてもらいたい焼酎リチャー樽の個性は?

芹川(ブレンダー):
ブレンドの中で「どのくらい焼酎リチャー樽を効かせるか」は常に悩みどころです。レモンティーやカリンのような香味を前に出しすぎると重たくなる。でも控えすぎるとKANOSUKEらしさが薄れてしまう。だからこそ、絶妙なバランスを探りながらブレンドするんです。
炭化した内側は不純物をやわらげるフィルターにもなり、味わいに奥行きを与えてくれます。厚みのあるアメリカンホワイトオークは50〜60年、時には100年も使える良材ですから、リチャーを繰り返すことで樽は息を吹き返し続ける。メーカーによっては、リチャー樽のことを「活性樽」と呼んでいるそうです。まさに再生のプロセスなんです。

中村:
焼酎は単式蒸留を一度だけ行うので、原料の個性がストレートに残る。米や麹由来の成分が樽にじんわり染み込み、それがウイスキー熟成に影響していると思います。焼酎の熟成に使われたからこそ生まれる、絶妙な調和なんです。

最初は「ちょっと焼酎っぽいね」と言われることもありました。でも今では「これぞKANOSUKEだ」と評価いただけるようになった。杏や桃のような果実感や、ニッキを思わせる繊細な“和”のニュアンス――これこそ焼酎リチャー樽ならではのやさしい“MELLOW”さであり、KANOSUKEの個性なんです。

Q5: 「焼酎リチャー樽」の原酒は、KANOSUKEのラインナップでどのように使われているのでしょう?

芹川(ブレンダー):
焼酎リチャー樽の原酒は、KANOSUKEのあらゆるウイスキーの「奥行き」や「複雑さ」の核になっています。ヴァッティングやブレンドの比率は商品ごとに異なりますが、KANOSUKEらしさを形づくる大事な要素であることに変わりはありません。
グラスを手にされたとき、「あ、これが焼酎リチャー樽の味わいなんだ」と思い出していただけたら嬉しいです。やはりこれは、私たちのDNAそのものなんです。

(インタビュー・文: マーケティング部 PR/Communication 丹沢恭子)

プロフィール: 嘉之助蒸溜所 所長/チーフブレンダー 中村俊一

1977年鹿児島生まれ。鹿児島大学大学院水産学研究科修了後、2005年に小正醸造入社。2019年より嘉之助蒸溜所で貯酒管理を担当し、2020年より所長兼チーフブレンダーとして生産管理・ブレンド・商品開発を統括。

嘉之助蒸溜所 ブレンダー/品質管理チーフ 芹川直子

鹿児島生まれ、京都育ち。東京農業大学醸造科学科で、シュール・リ製法におけるワイン酵母の選択を研究。大手ウイスキーメーカーでの品質管理部門勤務を経て、2018年に小正醸造入社。嘉之助蒸溜所で品質管理・原酒開発・ブレンディングを担当。

関連商品:

シングルモルト 嘉之助

嘉之助 DOUBLE DISTILLERY

嘉之助 DOUBLE DISTILLERY The Mellow Bar Reserve

嘉之助 DOUBLE DISTILLERY 2025 LIMITED EDITION