
PRODUCT STORY
- シェリー樽が濃密に香る、果実味あふれるシングルモルト-
嘉之助シングルモルト SHERRY CASKS VATTED 開発の舞台裏
嘉之助蒸溜所 ブレンダーチーム チーフ 神野僚太
2025年11月21日に発売された限定商品「嘉之助シングルモルト SHERRY CASKS VATTED」。フラッグシップ「シングルモルト嘉之助」を軸に、シェリー樽の豊かな果実味と “KANOSUKEらしいメローな個性” を追求した数量限定品です。 今回、この「嘉之助シングルモルト SHERRY CASKS VATTED」が、メインブレンダーとしてのデビュー作となった嘉之助蒸溜所 ブレンダーチーム チーフ・神野僚太(かみの りょうた)に、開発の背景とブレンディングのこだわりを語ってもらいました。

Q1. マスターブレンダーから与えられたテーマに対し、どのようにアプローチしましたか?
神野:
開発当初は「とろけるようなシェリー」というテーマが設定されていましたが、いざ表現方法を考えはじめると、思っていた以上に難しく、かなり頭を悩ませました。
最初に浮かんだのは、最も甘さを感じるペドロヒメネス(PX)樽の原酒です。しかし、実際に熟成庫に眠る「オロロソ」「クリーム」「マンサリーニャ」など、さまざまなシェリー樽原酒を片っ端からテイスティングしていく中で、今回手がけるべき酒質は、単なる“甘さ”だけではないと気づきました。
というのも、この商品は「嘉之助シングルモルト」の準定番的な立ち位置を想定しています。
つまり、フラッグシップである「シングルモルト嘉之助」を気に入ってくださっているお客様に対して、“シェリー樽原酒でKANOSUKEらしさを再解釈する”ことが求められていました。そのうえで、毎年安定してお届けできる再現性・持続性をもった酒質であることも重要な条件でした。
そこで改めて向き合ったのは、シングルモルト嘉之助らしいメローで柔らかな質感、南国果実を想起させるアロマや、焼酎リチャー樽由来のスパイス感といった“嘉之助のDNA”です。これらを軸に据え、何度も試作とフィードバックを繰り返しながら、理想とするシェリースタイルを少しずつ形にしていきました。

Q2. キーモルトは「オロロソ × クリーム」樽とのことですが、使用したシェリー樽とヴァッティングの考え方を教えてください。
神野:
今回の SHERRY CASKS VATTED は、シェリー樽比率60%以上という、シングルモルト嘉之助 2022 LIMITED EDITION を超える“贅沢な構成”となっています。
これまで嘉之助のシェリー原酒はオロロソ樽が中心でした。そのため、今回もまずは3.5年〜5年熟成のオロロソ原酒をベースに据えましたが、オロロソ単体では、どちらかというと「ドライでスムース」な質感に寄りやすいという課題がありました。
そこで注目したのがクリーム・シェリー樽です。甘口シェリー特有の“とろみ”や丸みのある甘さを加えることで、“リッチでフルーティーな、KANOSUKEらしさのある” シェリーのニュアンスに一気に近づきました。
ままたKANOSUKEでは幸運なことに、近年ほとんど市場に出回らず入手が極めて難しい“リアルシェリー樽”を、創業当初から継続的に確保することができています。実際にボデガで長年シェリーの熟成に使われてきた樽は現在非常に希少であり、入手のハードルは年々高くなっています。そのリアルシェリー樽で創業期から静かに熟成されてきた原酒は、濃密なナッティさ、複雑に重なり合うフレーバー、そして深い香味のレイヤーをウイスキーにもたらしています。
こうして選び抜いた、厚みと力強さを持つオロロソ、甘やかさを与えるクリームとして、
この2種のシェリー樽原酒が、今回のキーモルトとして最良の組み合わせになったと感じています。
そして最終的には、「シングルモルト嘉之助」のDNAである焼酎リチャー樽由来の“和のスパイス”が加わることで一気に調和が生まれ、“KANOSUKEのシェリー樽の再解釈”という明確な方向性が定まりました。
Q3. テイスティングで感じてほしいアロマや香味は?
神野:
オロロソ樽由来の芳醇なアロマに、クリームシェリー樽がもたらすなめらかな甘みが重なり、ダークチェリー、レーズン、ライチを思わせるリッチな果実味が口いっぱいに広がります。
さらに、焼酎リチャー樽由来のスパイスに、新樽由来のバニラ(オーキーさ)を重ねることで、ひと口目にはフルーツ・パウンドケーキのような凝縮した甘みが感じられ、その後にはマンゴスチンのような南国の余韻が静かに続いていきます。
そのあたりの香味の流れを、ぜひグラスの中で確かめていただけたら嬉しいです。

Q4. 相性の良いフードペアリングは?
神野:
お酒をきかせたドライフルーツやナッツ、スパイスが入ったフルーツケーキ
(クリスマスの「シュトーレン」を思わせる味わい)、クリームチーズ、ダークチョコレート・・・このあたりは鉄板の組み合わせです。
また、意外に感じられるかもしれませんが、スペアリブのような甘辛いソースを使った牛肉料理とも非常によく合います。
季節的にも、クリスマスディナーに寄り添う一本として楽しんでいただけると思います。
Q5. おすすめの飲み方・温度帯は?
神野:
48%で仕上げていますので、まずはシンプルにストレートで味わっていただきたいです。
時間の経過とともに、あるいはグラスに数滴の加水を加えることで、果実味がふわっと開いていきます。
ロックにすると、甘みの“とろみ”がより印象的に立ち上がります。
グラスの中でゆっくりと表情が変わっていくタイプのウイスキーなので、ぜひ時間をかけて、変化も含めて楽しんでいただければと思います。
Q6. どんなシーンで味わってほしいですか?
神野:
一日の終わりの“自分へのご褒美の一杯”としてはもちろん、
食後にゆっくりと楽しむデザートウイスキーとしてもおすすめです。
季節柄、クリスマスや特別な夜の食卓にもそっと寄り添ってくれる一本に仕上がっていると思います。
(インタビュー・文:マーケティング部 PR/Communication 丹沢恭子)
プロフィール:
嘉之助蒸溜所 ブレンダーチーム チーフ 神野僚太
1988年鹿児島県生まれ。鹿児島大学農学部卒業後、2011年に小正醸造へ入社。
焼酎の品質管理・ブレンド業務を経て、2017年の嘉之助蒸溜所立ち上げより製造・生産管理に従事。
2023年10月よりブレンダーに就任し、現在は生産管理とブレンド業務を統括している。
最近は、スコットランドでの研修の機会を得ており、その学びを日々の製造やブレンドに活かすべく、さらなる探求を続けている。