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KANOSUKEを紐解く Vol.4 : 7つの貯蔵庫が育む、KANOSUKEの熟成

KANOSUKEを紐解く Vol.4: 7つの貯蔵庫が育む、KANOSUKEの熟成

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“MELLOW LAND, MELLOW WHISKY”をコンセプトにウイスキー製造を行う嘉之助蒸溜所。
その裏側にある技、土地、そして人の想いを紐解くストーリーシリーズ 「KANOSUKEを紐解く」 の第4回をお届けします。

今回スポットを当てるのは、KANOSUKEのDNAともいえる焼酎リチャー樽をはじめ、多様な樣が眠る熟成庫、そしてそれらを活かして味わいを育てる熟成設計です。
1957年、小正醸造二代目・小正嘉之助は、日本初の樽貯蔵米焼酎「メローコヅル」を世に送り出しました。そこから受け継がれてきた焼酎熟成の知見は、いま、KANOSUKEのウイスキー造りへと確かにつながっています。

今回の語り手は、嘉之助蒸溜所 貯酒管理チーフ・神前拓馬。World Whiskies Awards 2025 にて 世界最優秀貯酒管理者賞 を受賞し、熟成の現場を支えるキーパーソンです。

インタビュー: 嘉之助蒸溜所 貯酒管理チーフ 神前拓馬

◆ひとつの地域、日置市・日吉町にありながら環境の異なる7つの熟成庫の設計思想
◆ 「レガシー」「コミュニティー」「テロワール」という3つの考え方
◆ “KANOSUKEらしさ”を形づくる、焼酎リチャー樽の高い比率
◆ 高いエンジェルズ・シェア(6〜8%)と向き合う熟成管理
◆ 長期熟成に向けた、データと経験の蓄積

Q1: WWA 2025「世界最優秀貯蔵庫責任者賞」受賞。率直な気持ちと、評価につながった点は?

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神前拓馬/貯酒管理チーフ(以下、神前):
KANOSUKEは「鹿児島発、世界に挑む次世代ジャパニーズウイスキー」を掲げ、焼酎造りで培った技術を土台に、焼酎リチャー樽の活用や鹿児島の地域性を活かした熟成に取り組んできました。
現在、熟成庫は7拠点あります。同じ地域にありながら、環境条件の異なる熟成庫を使い分けて熟成設計を行っている点が、評価につながったのではないかと受け止めています。ロンドンの授賞式では、「うれしい」というより先に「ワクワク」や「驚き」の方が大きかったです。同業の先駆者の方々や、イギリス向けプライベートボトルを一緒につくったThe Heart Cutさんなどと同じ舞台で受賞を喜び合えたことが印象に残っています。
帰国後は、社長とともに県知事を表敬訪問する機会もありました。メディア露出を通じて知ってくださる方が増え、飲食店などで声をかけていただくことも増えました。これをきっかけに、できるだけお客様の前に出て、直接KANOSUKEの魅力を伝えていきたいという意識も強くなりました。

Q2: KANOSUKEの熟成庫の全体像について教えてください。

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神前:
KANOSUKEの熟成庫は、現在7つ。その全体像は、大きく「レガシー」「コミュニティー」「テロワール」という3つの考え方で整理できます。

1.レガシー(伝統):
神之川エリアの第1〜第4貯蔵庫で、全体で約4,200樽規模。
1号棟は日置蒸溜蔵のポットスチル、2・3号棟はKANOSUKEのモルト、4号棟は両方を扱っています。
二代目嘉之助が青写真に沿って建てた貯蔵庫群で、樽熟成米焼酎「メローコヅル・エクセレンス」の熟成背景を持つ場所でもあります。ブランデー熟成庫を参考にした設計思想が活かされているといわれています。

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・ 1970年代から続く焼酎の長期熟成の取り組みが、現在の熟成設計の土台に。
・1〜3号棟は半地下構造で、外気の影響を受けにくく地熱の影響を受けやすいため、年間を通じて温度変化が穏やかで、長期熟成に適した環境を保ちやすい。
・1号棟は密閉度が高く、樽由来成分がより強く表れやすい一方、2〜4号棟は多様な樽を扱うため、香りの層が複雑になりやすい。

2.コミュニティー
旧日吉小学校の体育館を活用した熟成庫で、約1,500樽規模。
モルトとポットスチルの両方を扱っています。

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・ 建屋内でも熟成環境に差があること。高い天井の影響でラックの上下段に温度・湿度差が生まれやい。
・ 夏は暑く冬は寒い環境に加え、出入りが少ないことで酸化は比較的穏やかになりやすく、その結果、樽感のしっかりした力強い原酒が期待できる。
・ 地域にひらかれた場としての役割:旧校舎スペースはカフェやシェアオフィス、蒸溜祭の会場としても活用され、地域や来訪者が集うひらかれた場所

3. テロワール
蒸溜所併設の貯蔵庫と、2024年5月から運用が始まった第5貯蔵庫を指します。約3,500樽規模です。

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・ 吹上浜沿いの立地を活かすことを目的に設計され、海側と反対側の壁には潮風が抜ける窓を設置
・ 湿度や塩気を含んだ空気を取り込みながら管理性との両立を図っている。自然環境と管理性を両立した熟成環境
・ これまでにないKANOSUKEの“メローさ”に寄与することを期待

Q3:熟成庫ごとの違いを検証するために、どのような比較や実験を行っていますか?

神前:
実験では、変数をできるだけ減らすことが重要です。
そのため、同じロットのニューポット、同じ条件の樽を用意したうえで、熟成庫だけを変え、熟成の進み方を比較する取り組みを行っています。
たとえば、レガシー熟成庫で使っていた樽をテロワール熟成庫(第5)へ移し、同じタイミングで樽詰めしたもの同士の差分を見ることで、「熟成環境によってこういう違いが出る」という学びを積み重ねています。

Q4: 焼酎リチャー樽の比率と、それが“KANOSUKEらしさ”にどうつながっているのか教えてください。

神前:
一般的にバーボン樽が8割以上を占める蒸溜所も多いなかで、嘉之助ではバーボン樽は5割未満、焼酎リチャー樽が約3割を占めています。
焼酎リチャー樽は、米焼酎由来の甘みや、ニッキを思わせる和のスパイス感が出やすい樽です。
この和のニュアンスこそが“KANOSUKEらしさ”の核であり、味わいとストーリーの両面で差別化につながっていると考えています。

Q5: KANOSUKEの強みは、熟成焼酎の知見があったこととも言えます。普段、焼酎側(小正醸造)のチームとはどのように連携していますか?

神前:
焼酎側の製造メンバーや品質管理チームと相談しながら進めています。
こうした実験的な取り組みは、焼酎やジンも含めて、社内に“つくれる引き出し”があることが前提だと思っています。
こちらで酒質を把握したうえで、「この酒質を樽に使ったらどうなるか」を考え、香りの観点も含めて相談します。焼酎側でもカスクフィニッシュ商品が出ているので、理想は双方向に知見をやり取りできる状態です。

Q6: KANOSUKEの熟成管理の現場では、6~8%ともいわれる高いエンジェルズ・シェアとどのように向き合っていますか?

神前:
重要なのは、まず樽の品質選定です。その上で最近は樽メンテナンスをより細かく行い、入荷時から現場が対応できるよう実地研修の機会も増やしています。
また、稼働年数が積み重なり、熟成庫ごとの傾向も見え始めています。蓄積データをもとに熟成設計をアップデートし、エンジェルズ・シェアの抑制にもつなげていきたいです。実測は基本的に樽出し時に確定するので、度数変化や純アルコール量も含めて記録し、指標化しながら向き合っています。
熟成は10年、20年という時間軸で向き合うものです。自分の世代だけで完結する仕事ではないからこそ、未来の担当者へ残せるデータや試行の履歴を作ることも重要だと考えています。

Q7: 「樽次第」とも言われる世界で、熟成を“管理する”とは、どのような仕事でしょうか?

神前:
自分は焼酎蔵への入社で、蒸溜所立ち上げ当初は原酒造りから関わってきました。
だからこそ、KANOSUKEの原酒造りの変遷や、年数ごとの熟成変化と日々向き合える立場にあります。鹿児島での樽熟成は、想像以上に早く樽感が出ることがあります。3年未満でピークを過ぎたのではと感じるほど前に出ることもありました。
けれど一方で、3年を超えた頃に急に香味が“大人になる”瞬間が訪れることもあります。その変化を一番近くで見届けられることが、この仕事の醍醐味だと思っています。

Q8: 長期熟成について、現状の見立てを教えてください。

神前:
現状の最長は9年で、長期熟成はまだ道半ばです。ピークアウト(樽感が強くなり香りが落ちる局面)は、どこかで来る懸念はあります。
ただ、年数を重ねるごとに良くなっている実感もあります。早熟に向き合うには“骨格のあるニューポット”が重要で、原酒が軽やかすぎると、ピークアウトも早くなる印象があります。10年の節目では、10年熟成のシングルカスクと、可能であれば10年時点のシングルモルトの比較などしてみたいです。

Q9: 一番好きなKANOSUKEのウイスキーと、その理由を教えてください。

神前:
「嘉之助シングルモルト KAGOSHIMA EXCLUSIVE」です。2019年に自社モルティングした麦芽で造った原酒を、焼酎リチャー樽熟成原酒を軸にヴァッティングしているのが特徴です。
焼酎リチャー樽の“和の甘やかさ”に加え、鹿児島県産大麦「ほうしゅん」由来の南国フルーツのような香味が出る点が好きです。当時モルティング工程にも携わっていたので、原料作りから熟成まで関わった製品として特別です。

(インタビュー・文: マーケティング部 PR/Communication 丹沢恭子)

プロフィール: 嘉之助蒸溜所 貯酒管理チーフ 神前拓馬

1989年鹿児島生まれ。2013年小正醸造入社、焼酎製造課に配属。2018年、嘉之助蒸溜所創業後はウイスキー製造に従事。2020年より貯酒管理チーフ。2025年、ワールド・ウイスキー・アワード2025(ICONS of WHISKY)にて「世界最優秀貯蔵庫責任者賞」を受賞。