
PRODUCT STORY
ミズナラとピートに宿る、「水」の生命
嘉之助シングルモルト Artist Edition #005 開発の舞台裏
日本文化に根付く五行思想、木・火・土・金・水に着想を得て展開してきた、KANOSUKEの限定シリーズ「Artist Edition」。ウイスキーの個性をアートとともに表現してきた本シリーズは、第5作となる「水」で最終作となります。生命を象徴する「水」というエレメントを、KANOSUKEはどのように酒質へと落とし込んだのか。今回のブレンドの核となったのは、3種のミズナラ樽熟成原酒。Artist Edition #005に込めた酒質の設計の舞台裏について、嘉之助蒸溜所 所長/チーフブレンダー中村俊一に話を聞きました。
Q1: 今回のArtist Edition #005は、五行思想シリーズの最終作は「水」がテーマです。 中村さんは、この「水」というテーマを酒質としてどのように捉えましたか?
中村:
「水」というテーマを考えたとき、最初に浮かんだのは、透明感や静けさだけではありませんでした。水はとても静かな存在でありながら、同時に大きな力も持っています。
形を変えながら流れ、時には波紋となって広がり、やがて大きなうねりにもなる。そうした二面性を、酒質の中で表現したいと考えました。
今回のブレンドでは、ひとつの強い個性で押し切るのではなく、複数の原酒が少しずつ重なり合い、香りや味わいが波紋のように広がっていくことを意識しています。
静けさの中にある生命感、やわらかさの奥にある深さ。
それが今回の「水」の表現です。
五行シリーズの最終作としても、これまでの流れを受け止めながら、最後に穏やかにまとめていくような存在にしたいと思いました。

Q2: 「水」を表現するうえで、なぜミズナラを主役に据えたのでしょうか?
中村:
Artist Editionも今回の#005で一旦の区切りとなります。そのため、最後のテーマである「水」は、特別な原酒を使って表現したいと考えました。
その中で選んだのが、3種のミズナラ新樽熟成原酒です。
ミズナラには、白檀を思わせる香木のニュアンスや、どこか日本的で静かな奥行きがあります。今回の「水」というテーマに対して、その繊細で広がりのある香りがとても合うと感じました。
KANOSUKEらしいメローな甘さを大切にしながら、ミズナラの特別な個性で、「水」の静けさ、広がり、そして生命感を表現したいと思いました。
Q3: ミズナラ樽原酒は、今回3種類。どのような役割を担っているのでしょうか?

中村:
今回は、3種類のミズナラ樽原酒を使用しています。それぞれに異なる役割があります。
一つ目は、アンピーテッド麦芽のニューメイクをミズナラ樽で熟成させた原酒です。ミズナラらしい香木感や甘さを素直に表現してくれる原酒で、若い香木、ココナッツ、バニラのような甘やかさがあり、味わいの中心に柔らかな厚みを与えてくれます。
二つ目は、ピーテッド麦芽のニューメイクをミズナラ樽で熟成させた原酒です。これは、ミズナラの香木感にピート由来の煙や陰影を重ねる役割です。強くスモーキーにするというより、ミズナラの奥で静かにくゆる煙のような存在にしたいと考えました。
今回の「水」というテーマの中では、水面に広がる影や、静かな波の揺らぎのような役割です。
三つ目は、KANOSUKEシングルモルト原酒をミズナラ樽で約2年フィニッシュした原酒です。KANOSUKEらしいメローな甘さやバランスを土台にしながら、ミズナラの香りを重ねました。この原酒が入ることで、ミズナラの個性だけに寄りすぎず、全体をKANOSUKEらしい柔らかいメローな味わいにまとめることができました。
3つの原酒がそれぞれ違う方向からミズナラを表現することで、単一のミズナラ原酒では出せない奥行きや立体感を出せたと思います。
Q4: ミズナラの奥で静かにくゆる煙の様なピート、だんだん詩的になってきましたね。
中村:
今回のピートのイメージは、Jazzの名曲 “Take Five” からも着想を得ています。
Artist Editionの第5弾であること、そして “Five” という数字から、自然とこの曲の世界観が重なりました。この曲が5拍子という少し変則的なリズムを持ちながら、聴いているととても自然で心地よいのと同じ感覚です。
「意外性がありながら、最後には自然に調和している感じ」が、今回のブレンドで目指したバランスに近いと感じました。
Take Fiveのイントロは、ドラムから始まり、そこにピアノ、ベースが順に重なっていきます。そして最後にサックスが入ってくる。私には、そのサックスの入り方が、まるで煙が静かに漂ってくるように感じられました。
そのスモーキーなサックスのような印象を、ピートで表現したわけです。
イメージとしては、強く主張する煙ではなく、ミズナラの香木感や甘やかな果実味の奥から、ゆっくり立ち上がってくる煙、陰影のような存在です。一方、アンピーテッド麦芽は、ピアノやベースのように甘さとボディを支えています。
それぞれの原酒は個性が異なりますが、強くぶつかり合うのではなく、掛け合いながら少しずつ重なっていくイメージです。

Q5: 実際の味わいは、どのような仕上がりですか?
中村:
今回の香り立ちや味わいを一言で表すなら、「静かな濃密さ」だと思います。
味わいでは、金柑ジャムのような濃密で甘酸っぱい果実味が特徴的です。
甘さはリッチですが、シトラスピールのほろ苦さやスパイスがあることで、重たくなりすぎず、みずみずしい余韻につながっています。今回のテーマである「水」に重ねると、最初は小さな波紋のように香りが広がり、果実味、スパイス、ピートが少しずつ重なりながら、最後には大きなうねりのような余韻につながっていく。
その意味では、思い描いていた方向に近い仕上がりになったと感じています。
Q6: アレクサンダー・コリ・ジラードさんが描いた「水」の作品をご覧になって、どのように感じましたか。アートと酒質のあいだに共鳴はありましたか?

中村:
今回、とても印象的だったのは、ラベルデザインの制作とウイスキーの酒質設計を、同じ「水」というテーマを共有しながらも、同時並行で進めたにもかかわらず、完成した作品を見たときに、自分が思い描いていた酒質のイメージと非常に近かったことです。正直、とても驚きました。
作品には、青の濃淡による水の透明感や深さがあり、その中に黒い流れのような力強い表現があります。
今回のブレンドでも、穏やかで柔らかいだけではなく、香りや味わいが波紋のように広がり、最後には大きなうねりのような余韻につながることを意識していました。
作品の中にも、静けさと動き、透明感と力強さが同時にあり、その感覚が酒質と自然に響き合っていると感じました。
アートと酒質のあいだには、意図的に合わせたというよりも、同じテーマからそれぞれが生まれた結果として、自然な共鳴が起きたのだと思います。その偶然性も含めて、今回のArtist Edition #005らしい魅力になっていると感じています。
Q7: 最後に、中村さんおすすめの味わい方を教えてください。

中村:
まずはストレートで、少し時間をかけながら味わっていただきたいです。
注いだ直後は、バニラやココナッツ、若い香木のようなミズナラの香りが立ち上がります。少し時間を置くと、金柑ジャムや白桃、はちみつのようなリッチな甘さがゆっくり開いていき、さらに飲み進めると、ニッキやクローブのようなスパイス、シトラスピールのほろ苦さが重なっていきます。そして奥から、静かにピートが現れてきます。
ぜひ、Take Fiveを聴きながら楽しんでいただきたいです。
加水する場合は、数滴ずつゆっくり加えるのがおすすめです。
今回のテーマは「水」でもありますので、水を加えることで香りが開き、ミズナラ、果実味、ピートが波紋のように広がっていく感覚を楽しんでいただけると思います。
急いで飲むよりも、音楽を聴きながら、グラスの中で少しずつ変化していく香りや余韻を感じていただきたい一本です。
(インタビュー・文:マーケティング部 PR/Communication 丹沢恭子)

プロフィール: 嘉之助蒸溜所 所長/チーフブレンダー 中村俊一
1977年鹿児島生まれ。鹿児島大学大学院水産学研究科修了後、2005年に小正醸造入社。2019年より嘉之助蒸溜所で貯酒管理を担当し、2020年より所長兼チーフブレンダーとして生産管理・ブレンド・商品開発を統括。
動と静をあわせ持つ、水彩表現との共鳴
このたび、嘉之助蒸溜所との協働によるアーティスト・エディションに参加できましたことを、大変光栄に思います。KANOSUKEのクラフトマンシップへの真摯な姿勢、そして細やかなニュアンスにまで心を配るものづくりは、私自身の制作姿勢とも深く響き合っています。 今回与えられたテーマは、「水」というエレメントでした。 私にとって水は、しなやかな順応性の象徴です。障害に抗うのではなく、受け流しながら進んでいく。その流動する姿には、静かな知恵が宿っているように思います。絶えず移ろいながら、同時に静けさをたたえること。動と静、その両方を内包すること。そうした感覚は、近年私が取り組んでいる水彩表現とも自然に重なり、本作のイメージへとつながっていきました。

アーティストプロフィール
Alexander Kori Girard(アレクサンダー・コリ・ジラード)
1979年、米・ニューメキシコ州サンタフェ生まれ。2001年、ニューヨーク市のスクール・オブ・ビジュアル・アーツを卒業し、グラフィックデザインとイラストレーションを学ぶ。カリフォルニア州オークランドのJohansson Projects、東京のCurator’s Cubeで個展を開催するほか、Gallery 16(サンフランシスコ)、Ace Hotel Gallery(京都)、Berkeley Art Museum and Pacific Film Archive など多数のグループ展に参加。作品はBerkeley Art Museum、在モザンビーク・マプト米国大使館コレクション、Ace Hotel Kyotoなどに収蔵されている。現在はサンタフェを拠点に活動。