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KANOSUKEを紐解く Vol.5: ニューメイクに宿る“メロー”の本質

“MELLOW LAND, MELLOW WHISKY”をコンセプトにウイスキー製造を行う嘉之助蒸溜所。
その裏側にある技、土地、そして人の想いを紐解くストーリーシリーズ 「KANOSUKEを紐解く」 の第5回をお届けします。
「KANOSUKEをひも解く」Vol.1では、シングルモルト嘉之助のキーモルトである「焼酎リチャー樽」に注目し、KANOSUKEの“メロー”を支える熟成の個性を紐解きました。
Vol.5で見つめるのは、その焼酎リチャー樽に詰められる前の原酒、すなわちニューメイクの造りです。フルーティーで、クリーミー。そして、奥行きのある味わい。
KANOSUKEらしい“メロー”は、樽熟成によってのみ生まれるものではありません。麦汁、発酵、乳酸発酵のコントロール、そしてワームタブを備えた3基のポットスチルによる蒸留。その一つひとつの工程に、すでに“メロー”の輪郭は宿っています。
今回は、嘉之助蒸溜所 ブレンダー/品質管理チーフの芹川直子に、ニューメイクに宿る“メロー”の本質を聞きました。
インタビュー: 嘉之助蒸溜所 ブレンダー/品質管理チーフ 芹川直子
◆ “メロー”は樽に入る前から始まっている
◆ 果樹園のような香りを育む、長時間発酵と乳酸発酵のコントロール
◆ ワームタブが残す、厚みのあるニューメイクの骨格
◆ 経験とデータで磨かれてきた、KANOSUKEの原酒づくり

Q1: 芹川さんから見て、嘉之助シングルモルトの味わいの土台とは何でしょうか。
芹川直子/ブレンダー・品質管理チーフ(以下、芹川):
嘉之助シングルモルトらしさをひと言で表すなら、フルーティーな甘さと穏やかさに、ほろ苦さが寄り添う香味バランスだと思います。日本の食卓にも、そっと寄り添えるようなウイスキーです。
もちろん、嘉之助シングルモルトには、焼酎リチャー樽由来の個性があります。後味に上品さや安心感をもたらし、味わい全体に和のニュアンスを添えてくれる大切な存在です。
ただ、その個性を支えているのは、樽に入る前の原酒の土台です。糖化、発酵、蒸留の段階で、フルーティーさ、クリーミーさ、リッチさ、円熟味につながる要素をどれだけ丁寧に造り込めるか。そこに、KANOSUKEらしい“メロー”の出発点があると考えています。
Q2: 「焼酎造りを活かしたウイスキー造り」とは、現場感覚ではどのようなことを指しますか。
芹川:
嘉之助蒸溜所のウイスキー造りには、焼酎蔵として培ってきた経験が、さまざまな形で生かされています。
たとえば蒸留器の素材や形状、蒸留方法の選定には焼酎造りで複数の蒸留器を使い分けてきた知見があります。特に、すべてのポットスチルにワームタブ式の冷却器を採用している点は、KANOSUKEらしい酒質に大きく関わっていると思います。
また、発酵工程では、ステンレス発酵槽の使い方や温度管理も重要です。どのようなもろみをつくるかによって、ニューメイクの香味の方向性は大きく変わります。
熟成や樽の話に注目されることも多いのですが、現場ではまず、もろみの段階で「どのような原酒になっていくのか」を想像しながら向き合っています。KANOSUKEらしい味わいの根本は、熟成に入る前から始まっています。
Q3:KANOSUKEの長時間発酵は、原酒のフルーティーさにどのように寄与していますか。
芹川:
KANOSUKEでは、一般的なスコッチウイスキーと比べて発酵に長い時間をかけています。その中で発酵もろみには、熟した洋梨、黄桃、バナナ、パイナップル、焼きリンゴのような香りが表れてきます。
タンクを開けたときに、果樹園を思わせるような香りを感じることもあります。そこに、ニッキのようなスパイシーな香味が重なってくる。こうした香りの複雑さがニューメイクの味わいにつながっていきます。
長く時間をかけることで、単に果実香が増すだけではありません。味わいには、ワンステップ上がったようなクリーミーさや、後味につながる円熟味の要素も生まれてきます。KANOSUKEの“メロー”を考えるうえで、長時間発酵はとても重要な工程です。

Q4: ジャケット式冷却による発酵管理は、どのような酒質上の価値を生んでいますか。
芹川:
ジャケット式冷却を用いることで、春夏秋冬の季節変化に大きく左右されず、安定した酒質の生産が可能になります。
発酵は、生きもののような工程です。気温や環境の影響を受けやすいからこそ、温度を適切に管理しながら、狙った香味を安定的に引き出すことが大切です。KANOSUKEが目指すフルーティーさ、クリーミーさ、そして後味に続く円熟味には、この発酵管理が欠かせません。
発酵段階で「これはいい原酒になりそうだ」と感じる兆しは、香りと酸のバランスに表れます。香り立ちが果樹園のようであること。そして、もろみを口に含んだときに、キリッとした酸が感じられること。この酸が、後のニューメイクの輪郭をつくる大切な要素になります。
Q5: 形状の異なる3基のポットスチルとワームタブは、どのようにKANOSUKEらしいリッチさをつくっているのでしょうか。
芹川:
KANOSUKEには、形状の異なる3基のポットスチルがあります。たとえば、ストレート型の釜は原料の個性をしっかり出したいときに、ランタン型の釜はフルーティーで軽快な酒質を造りたいときに使うなど、それぞれに役割があります。
ただ、リッチさは蒸留だけで突然生まれるものではありません。まず、糖化と発酵の段階で、フルーティーでクリーミーな要素や、厚みのあるもろみをつくることが大切です。そのうえで、蒸留工程で必要な香味を拾い上げ、ワームタブ特有の個性を加え、ニューメイクとして構成していきます。
ワームタブは、原酒と銅との接触が比較的少ないため、厚みのある酒質を生みやすい特徴があります。舌の奥に伸びていくような力強さや、原酒の骨格を残すうえで、大きな役割を担っています。
KANOSUKEのリッチさは、もろみ段階での厚みと、蒸留工程での力強さ。その二段階で表現されていると考えています。

Q6: 芹川さんご自身の言葉で、KANOSUKEの「リッチでフルーティー」を定義するとどうなりますか。
芹川:
フルーティーさは、麦汁の清澄度や発酵工程のコントロールによって形づくられる部分が大きいと思います。乳酸発酵のコントロールや、発酵中に生まれる果実香が、ニューメイクの華やかさにつながります。
一方で、リッチさは、発酵と蒸留の両方でつくられるものです。乳酸発酵によって原酒の個性を膨らませ、ワームタブの特性や蒸留のカットポイント、留液温度の設定によって、厚みや力強さを整えていきます。
品質管理の立場から見ると、KANOSUKEらしい原酒とは、リッチで、クリーミーで、フルーティーで、円熟味につながる要素を持っている原酒です。麦汁の清澄度や、発酵もろみの酸度のバランスがうまく整っていることも、重要な判断材料になります。
Q7: 創業初期と比べて、KANOSUKEの原酒はこの8年でどのように進化しましたか。
芹川:
大きく進化したのは、イメージする酒質に対して、麦芽・水・酵母などの原料選定から仕込み設計、発酵工程における乳酸発酵のコントロールまでを、チームで検討できる体制が整ってきたことです。その結果として、もろみに生まれる香味の複雑さを、より意図的に表現できるようになってきました。
創業初期からさまざまな仕込みに取り組んできましたが、近年は過去の仕込み条件や結果のデータも蓄積され、実際の造りに活かせることが増えています。
特に大切にしているのは、もろみ、ニューメイク、そして熟成2〜3年を経た原酒の香味を、感覚的に線でつなぐことです。もろみの段階で感じた香味が、ニューメイクでどう表れ、さらに熟成を経てどう変化していくのか。その見極めが、少しずつ精緻になってきていると感じます。
蒸留のカットポイントについても、製造オペレーターとラボメンバーでテイスティングを重ねながら、一定の軸をつくってきました。造りたい原酒のキャラクターに合わせて生産メソッドを設定し、その結果を記録し、次年度の造りへとつなげていく。そうした積み重ねが、KANOSUKEらしい原酒づくりの精度を高めていると思います。

Q8: 焼酎リチャー樽やヴァッティングは、ニューメイクの個性をどのように完成へ導いていますか。
芹川:
焼酎リチャー樽は、嘉之助シングルモルトに和のニュアンスと奥行きを与えてくれる存在です。ニッキやかりん飴のような渋み、後味につながる落ち着きは、焼酎リチャー樽ならではの個性だと思います。
ただし、今回のテーマであるニューメイクの視点から見ると、その個性を上品に生かすためにも、原酒そのものの土台が重要です。フルーティーでクリーミーなニューメイクがあるからこそ、焼酎リチャー樽の和のニュアンスが強く出すぎることなく、味わいの立体感として表れるのだと思います。
ヴァッティングにおいても、焼酎リチャー樽を上品に引き立てながら、さまざまな原酒を重ねて全体のバランスを整えていきます。焼酎リチャー樽は個性があるため、比率が高くなりすぎると香味にくどさが出ることもあります。だからこそ、バーボン樽、シェリー樽、ワイン樽、ピーテッドリチャーバーボン樽、新樽原酒などを組み合わせながら、飲み飽きしないバランスを探っていきます。
その前提として大切なのは、樽払いの段階で未熟香が少なく、すでに安定感のある原酒であることです。ブレンドの完成度を支えているのも、やはりニューメイクからの造り込みなのです。
Q9: これからさらに磨いていきたいKANOSUKEの原酒の方向性は何ですか。
芹川:
今後は、ベースとなる原酒をさらにどっしりとした、原料個性豊かなものに整えていきたいです。同時に、さまざまなタイプの原酒造りを意図的に行い、複数の原酒系統を素材として、安定したブレンド設計につなげていきたいと考えています。
たとえば、5年熟成などの原酒を生かした、よりリッチなブレンド設計にも取り組んでみたいです。短期熟成ウイスキーとしての可能性を、原料特性や発酵・蒸留の技術でさらに広げていくことも、KANOSUKEにとって大切な挑戦だと思います。
目指しているのは、香味のムラを感じさせない、安定した生産ができる蒸留所であること。そして、次世代のクラフトウイスキーを率いていける存在として、原酒づくり、熟成、ブレンドの技をさらに磨いていくことです。
その中でも、やはり思い入れがあるのは、レギュラー商品である「嘉之助シングルモルト」です。原料選定、もろみ造り、蒸留、ニューメイク、熟成、そしてブレンドまで、さまざまな工程で挑戦を重ねてきた原酒が詰まっている商品です。日々の成長を製品ごとに感じることができる、嘉之助蒸溜所の原酒造りの歴史そのもののような存在だと思います。
個人的には、焼酎リチャー樽の和のニュアンスに加え、熟成年数を重ねた赤ワインカスク原酒が、味わいに奥ゆかしさを添える大切なキーになっているとも感じています。

KANOSUKEの“メロー”は、熟成によって完成へと向かいながらも、その本質はすでに、ニューメイクの中に息づいている。
麦汁、発酵、蒸留、そして樽熟成へ。
一つひとつの工程で積み重ねられた香味の設計が、嘉之助シングルモルトの味わいを支えています。
(インタビュー・文: マーケティング部 PR/Communication 丹沢恭子)
プロフィール: 嘉之助蒸溜所 ブレンダー/品質管理チーフ 芹川直子
鹿児島生まれ、京都育ち。東京農業大学醸造科学科で、シュール・リ製法におけるワイン酵母の選択を研究。大手ウイスキーメーカーでの品質管理部門勤務を経て、2018年に小正醸造入社。嘉之助蒸溜所で品質管理・原酒開発・ブレンディングを担当。
